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「ODC アドバイザー 坂下 清 コラム」
第10回 人類とデザイン - その5

産業革命、人類は初めてエンジンを持った。文明化が急速に進み、そして近代デザインの夜明けが迫る!!

2018-01-31
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産業革命、人類は初めてエンジンを持った。文明化が急速に進み、そして近代デザインの夜明けが迫る!!

*J. ワット(英)の蒸気機関、スチーブンソン(英)が実用化に成功した蒸気機関車「ロコモーション号」


15世紀、ルネッサンスに始まり、17世紀にかけて近代の発展の基盤となった産業革命につながる新技術が開発されました。
しかし、革命の原動力となるエンジンが開発されたのは1718年、ニューコメン(英)による定置型蒸気機関であり、
1765年、J.ワット(英)の改良により実用化に成功したことがその後の蒸気機関を動力とする大型船、飛行船、
馬車に蒸気機関を積んだ自動車、そして、1864年にはトレビシック(英)による蒸気機関車等が誕生することにより、
人や物資の移動がより早く、より遠くなり地球規模で産業化社会の実現に向かうことになりました。
1875年にはスチーブンソン(英)により有名な「ロコモーション号」がストックトン~ダーリントン間21kmの実用運行に成功しました。
その後、1888年、ダイムラー(独)による「V型2気筒エンジン」、次いで、電気、電信等々の新規技術の実用化により
産業化が加速度的に進むこととなりました。
以下、数々の新技術を分野別に年代を追って列記することとします。

・蒸気機関
1770年 キュニョー(仏)蒸気機関による自動車開発
1775年 ペリエ(仏)蒸気機関船でセーヌ川航行
1807年 フルトン(米)蒸気機関外輪船によりハドソン川運航
1838年 英国海軍 スクリュー推進成功
1852年 ジファール(仏)蒸気機関による飛行船
1864年 トレビシック(英)蒸気機関車の走行に成功

・内燃機関
1888年 ダイムラー(独)V型2気筒エンジン
1892年 ディーゼル(独)ディーゼルエンジン開発
1903年 ライト兄弟(米)エンジン搭載の飛行機初飛行
1908年 フォード(米)T型フォード量産開始

・電気/通信
1746年 ライデン大学(蘭)ライデン瓶(蓄電池の原型)
1752年 フランクリン(米)凧による電気エネルギー取り込み実験に成功
1800年 ヴオルタ(伊)ヴオルタ電池発明(フィラデルフィア万博)
1831年 ファラデー(英)発電装置の開発
1839年 モールス(米)N .Y. 大学にて電信装置設置
1873年 シーメンス(独)電磁型発電機開発
1876年 グラハム・ベル 電話機開発
1877年 エジソン(米)蓄音機開発
1880年 同、フィラメント電球開発(京都の竹の繊維を利用)
1889年 ステラ(米)電気モーター開発
1895年 マルコニー(伊)無線通信装置の開発

・その他の新規技術
1845年 ハウ(米)ミシンの発明
1851年 ロンドン万博にて、鉄とガラスによる巨大建築"水晶宮"登場
1860年 ベッセマー(英)改良型転炉による鋼鉄生産に成功、レミントン(米)タイプライター開発
1889年 エッフェル(仏)ベッセマー鋼によるエッフェル塔完成
1890年 リリエンタール(独)グライダーによる300メートルの飛行に成功

これらの技術開発は、人、モノ、そして情報が発祥の地となったイングランドに止まらずヨーロッパ、新大陸アメリカ等、
広く世界に広がることとなりました。その間、わずか150年余り。
人類のそれまでの数百万年にわたる進化の歴史の中で驚異的な短期間で近代産業化社会への転換が成し遂げられました。
鉄道のみならず、自動車、大型の船舶等の交通機関の発達により、人、モノの移動が活発に行われることにより
人類社会の発展が急速に進んだことになります。
そして人々の生活が豊かになることにより、文学、音楽、美術、演劇等の芸術全般にわたって豊かな成果がもたらされることとなり、
機能、使用性、さらに感性を豊かにする近代デザインが生み出される状況が整ってきました。


*ライト兄弟の初飛行、H. フォードによる量産車"T型フォード



しかし、意外にも近代デザインの最初の活動は粗悪な工業生産品に対するアンチテーゼとしての
良質なクラフトデザインへの回帰とも言えるW. モリス(英、1834~1898)による「アーツ・アンド・クラフツ運動」でした。
当時の市民が手に入る生活用品は、パターンブック(現在の商品カタログに相当)に頼った安易な機械生産品であり、
陳腐化した装飾や形の再現でしかなく、安価ではあってもそれまでの専門職人が創り出していたクオリティには全く及びませんでした。
モリスは社会学者J、ラスキンから受けた強い影響のもと、植物をモチーフにした壁紙や華美な装飾を排した
良質な家具等を創出し高い評価を受けました。
そのよりどころとした機械生産を否定する考え方は時代の流れに逆行することになりました。
「生活に関わる全てのものに美と秩序を与えなければならない」という基本思想は
その後の近代デザインの展開の原点であったと考えられ、近代デザインの父と評価されています。
また、モリスはグループのメンバーと1861年に「モリス・マーシャル・フォークナー商会」を設立し、
作品の販売を通じて生活の変革を実現することを目指しました。
これらの思想や実践は19世紀半ばにして"トータルデザイン"そしてデザインビジネスを実現していたと言えます。
ただ、残念ながらこのデザイン運動の基本思想は高く評価出来ますが当時の醜悪な機械生産品に対する抵抗運動という面が強く、
産業化社会における機械生産の特質を否定したネガティブな運動に終わり、
本来の"インダストリアルデザイン"とは接点がなかったと考えざるを得ません。


*モリスによる壁紙、家具類


しかし、「アーツ・アンド・クラフツ運動」は海を越え19世紀末から20世紀の初めにかけてフランスのパリを中心に広がった
「アールヌーボー」につながることになりました。
この名称は運動の創始者であるバンデベルデ(伯)が設計、パリ市内に開店したインテリアショップに由来していますが、
モリスからの影響もあり植物の自然な曲線を主要なモチーフとしたスタイルが特徴であり、建築、家具、生活什器に至るまで広がりました。
現在でもパリ市内の地下鉄の入り口や階段の手摺、或いはアパートメントの門扉等、いたるところで見ることが出きます。
同じ時期にスペイン・バルセロナで現在も建築が進行中の「サグラダファミリア教会」「グエル公園」の設計者として有名な
アントニオ・ガウディ(1855~1926)も植物、動物をテーマにし、曲線を多用していることでも影響が見られます。
少し遅れて1925年にパリで開催された「アールデコ」展では、直線、円、渦巻き等、幾何学的模様が多用され
前記のアールヌーボーとは一線を画した展示が見られました。
同時期にオーストラリアでは「ウイーン工房」が生活の芸術化を目指した活動も行われ近代デザインの出現が間近に迫って来ていました。


*パリの地下鉄の入り口、アパートの玄関、ガウディのサグラダファミリア教会


これらの自然を表現テーマとしたデザイン活動はすでに工業化が進んでいたドイツでは機械による生産品の品質、使用性、
そして機能的な美しさを追求する活動が始まりました。
1907年、H.ムテジゥス(独)を指導者とする「ドイツ工作連盟、D・W・B」が発足、建築家、デザイナー、評論家、
そして、資本家、政治家も参加し、芸術と産業の融合と近代化を目指す活動がスタートしました。
ムテジゥスは明治時代に日本において官庁集中計画に建築技師として参画、
その後、ロンドンの大使館に勤務し前記した「アーツ・アンド・クラフツ運動」に大きな影響を受けたが、
産業化社会を前提としたデザインを目指したことがその後の世界初のデザイン教育を目指した「BAUHAUS」設立に結び付きました。
次項で本格的な近代デザインの発祥の詳細をお伝えします。


坂下 清(一財)大阪デザインセンター アドバイザー

大阪生まれ。1957年東京芸術大学美術学部図案科卒業。同年早川電気工業(現シャープ(株))入社。さまざまな家電製品のデザインを行う一方、全社CI計画を手がける。
取締役、常務取締役、顧問を経て1997年退任。

Corporate Design Management研究をライフワークとし、大学、関係団体、デザイン研究機関にて活動を継続。

2000年~2012年(一財)大阪デザインセンター理事長。

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