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お知らせ

「未来×デザイン」思考プロジェクト 2019 基調セミナーレポート
ジュリア・カセム氏「Inclusive Design for Social Innovation」

2019年11月8日(金)14:00~17:00
 

「未来×デザイン」思考プロジェクトは、インクルーシブデザインの第一人者として知られる京都工芸繊維大学特命教授のジュリア・カセムさんの特別講演で幕を開けました。
 
大阪デザインセンター「SEMBA」には、プロダクトデザイナーやグラフィックデザイナー、ウェブデザイナーの方々のほか、公益法人の代表者や企業の企画担当者、インクルーシブデザインとの関わりが深い車いす利用者の方々など、多彩な参加者が集まり、カセムさんの講演に耳を傾けました。
 
 
プロセスがすべてなのです
 

多様性を受け入れ、より多くの人に役立つデザインを
 

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障がい者や高齢者、少数派民族などは、一般的な市場から除外される傾向にあります。物理的に、経済的に、あるいは社会的に周縁化された、こうした人々がデザイン・プロセスに参画することにより、より多くの人々が利用できるプロダクトやサービスが実現する、というのがインクルーシブデザインの考え方です。
 
インクルーシブデザインはヨーロッパが発祥。プロジェクトの初期の段階から、排除されがちな人々とともに考え、創造し、作り上げていくのが特徴です。そうすることで、一般的な着眼点からは得られないような創造性や発想をデザインに取り入れることができ、よりよい結果が生まれるといいます。
 
インクルーシブデザインの一つのキーワードとなるのが"多様性"。カセムさんは、多様性をどのように受け入れるかが大切だと語ります。
 
「2011年にイギリスとウェールズで行われた異人種間の関係性(Inter-ethnic relationship)に関する調査では約10人に1人が人種の異なる人と婚姻関係や交際関係にあることがわかりました。実際、私の夫はスリランカ出身、ほかのファミリーもデンマークやイタリアなど多様なルーツの人々とリレーションシップを築いています」と、自身のファミリー写真をスライドで公開。欧米に比べると日本は人種的な多様さには欠けるとしながら、年齢や障がいの有無、方言など、そのほかの面で多様性をはらんでいると指摘しました。
 
 
美術館から始まったインクルーシブな芸術への挑戦
 
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カセムさんが日本の大手英字新聞"The Japan Times"で美術専門のコラムニストとして活動をしていたのは、バブル期の真っ最中。巨額の公費が投じられた美術館や博物館が乱立した時代です。「建物を建てて、その後で中に入れるものを考える」といった、後に「箱物行政」と揶揄される状況がピークを迎えていました。「何のために作るのか、その美術館や博物館が何のためになるのか、という部分が全く欠落した状態でした」
 
「The Japan Timesの紙面で名古屋美術館の展示について辛辣な批評コラムを発表したところ、なんと、それを見た美術館の館長から2年後の展覧会を任せたいとオファーが舞い込みました」。そこで、『見えない人や見ることはできるが視覚的に理解できない人のために、アートワークへの認知的及び感覚的なアクセスをどのようにして確保するか』というDesign Question(デザインの解決すべきテーマ)を打ち上げ、視覚障がいを持つ人とともにプロジェクトチームを結成。
 
目の障がいがある人には何が必要なのか、何を望んでいるのかなどを当事者と話し合い、作品の選択やガイダンスの音声、点字、拡大の必要性などをリサーチしました。その結果、展覧会は賞を得るほどに高く評価されたそうです。その後も視覚障がいを持つ人と美術館を結びつける「アクセスビジョン」という非営利団体を立ち上げ、数々のプロジェクトを成功させました。ここで得た経験や学びをまとめた著書が『光の中へ―視覚障碍者の美術館・博物館アクセス』(小学館)です。
 
 
デザイン史は語る―障がいとデザインの濃い関係
 
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カセムさんがデザインに足を踏み入れたのはRoyal College of Art(英国王立芸術大学院)
ヘレン・ハムリン研究センターの設立者であり、インクルーシブデザインの命名者でもあるロジャー・コールマン氏の誘いがきっかけでした。コールマン氏からは「少ない予算で、障がいを持っている人に有益になる仕組みを、プロのデザイナーと一緒に作り上げたい」という要望を伝えられました。
 
「歴史的にも障がいとデザインは強くリンクしている」というカセムさん。具体例として、タイプライターが生まれたエピソードを紹介してくれました。「これは全盲の恋人と愛を語り合うためにイタリア人のプレグリノさんが発案したもの。タイプライターならタッチタイピングができるでしょう?」
 
カセムさんは「インクルーシブデザインの背景にはスティグマ(悪いレッテル)が存在します」と問題を提起。障がい者グッズや高齢者グッズは、ビジネスとしての規模が小さいため、大手企業はあまり手を出しません。機能的なことを満たすだけのグッズは総じてデザインがひどい。障がい者はどんなに気に入らなくても我慢しなくてはなりません。「機能と美学をどうまとめるか。障がい者が必要としている製品が恥ではなく誇りとなるものを手ごろな価格で提供することもインクルーシブデザインの大きな課題」だと指摘しました。
 
そうした問題を解消するため、カセムさんは世界中で多数のワークショップを開催。あるワークショップでは、全盲の人や手が使用できない人が便利に使える絆創膏の考案にチャレンジし、絆創膏の箱と個包装を改良しました。全盲の人が新しいシステムを使用するには適切なインストラクションが大切であることなど、実際に障がいを持っている人の意見を通して多くを学ぶことができたそうです。
 
 
まず「排除」の実態を理解すること
 
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「インクルーシブデザインでは、多様性を理解すること、複数のシナリオアプローチを持つこと、排除とは何かを理解することが大切です」。入居者のおもらしで頭を悩ませるイギリスのケアホームから依頼されたソファー(クッション)の開発の事例や銀行ATMが使用できない人たちの例、文盲の中国人女性の例などをスライドとともに紹介しました。
 
受講者たちが衝撃を受けたのは、普段自分たちが当たり前に使っているATMの例。スライド写真の中の背の低い女性と移民らしき女性を例にとり、写真に映し出された排除的な要素について参加者と意見を交わしました(写真上)。背の低い女性がATMのパネルに届かないという物理的な排除に関してはだれもが簡単に気づきましたが、移民の女性に立ちはだかるサービスを利用できないサービス排除や言葉がわからない語学排除といった認知的な排除(Cognitive exclusion)は見落とされがちでした。
 
読むことや書くことができないためにバスに乗れなかったり、地図が読めなかったりなど、生活に大きな支障がある中国人の女性、子供から携帯電話をもらっても使用方法が全く分からないデジタル排除の女性のほか、ハイテクコーヒーマシーンが使えない視覚障がいや弱視の人(物理的排除)、高齢の人(デジタル排除)など、身近な生活の中に溢れる排除の実例をカセムさんは次々とスライドで説明しました。
 
 
コラボする&プロセスをデザインする
 
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カセムさんはインクルーシブデザインの基本を「文脈を理解して活かすこと」「強みと弱点を分析し見つけ出すこと」「強みを活かして弱点をおぎなうこと」「コラボレーションチームを形成すること」の4点とし、その中でもコラボレーションチームの形成を重視しています。
 
京都工芸繊維大学の領域横断型の教育研究拠点「KYOTO Design Lab」では、カセムさんを中心に研究者とデザイナー、そして障がい者がチームとなってさまざまなワークショップを開催しています。
 
製薬会社へアプローチするために始めたショウジョウバエを使ったプロジェクト"Designs for Flies"では、大学の遺伝専門の生物学者と難病のCMT患者、プロダクトデザイナーかチームを結成。過疎化する農村部の交通システムを改善するためのプロジェクトでは、農村部の人の意見を聞きながらデザイナーと科学者がチームを組みました。
 
「インクルーシブデザインではプロセスのデザインが重要です。どういう結果が欲しいのかをまず定め、その結果にたどり着くために、どういったプロセスを踏むのかをデザインするのです」
 
京都工芸繊維大学で行ったFixpertsプロジェクトでは、デザイン学部の学生が農家の人や靴修理人の元に赴き、仕事の方法を改善できる製品開発に取り組みました。
 
また、カセムさんはRoyal College of Artで行った世界規模のプロジェクト、インクルーシブデザインチャレンジの例も紹介。低賃金の建設労働者のためにセメントの空き容器やペットボトルで簡易の洗濯機を考案した中国でのプロジェクト、失業率30%の町の特産品を作りだすために総勢20名のデザイナーと現地住民、知的障がい者がチームを作って取り組んだ旧ユーゴスラビアのプロジェクトなど、参加者全員でプロセスをデザインしたインクルーシブデザインの実例がスライドで示されました。「インクルーシブデザインで大切なのは、どういうプロセスで作るのかということです」と再度強調し、3時間にわたる講演を終えました。
 
 
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カセムさんの講演後、この講座の総合プロデューサー・竹綱章浩さんが、
インクルーシブデザインのパイオニアであるロジャー・コールマンについて解説してくれました。

 
豊富な写真やイラストを使用して、自身の関わったプロジェクトやワークショップの実例を説明しつつ、参加者にも意見や疑問を問いかけたカセムさん。長時間の聴講後も参加者から積極的に質問が上がったり、参加者同士も積極的に交流したりと、参加者全員で考えるインタラクティブな講演会となりました。
 
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講演者:
ジュリア・カセムさん(京都工芸繊維大学特命教授)
 
総合プロデューサー:
竹綱章浩さん(きづきデザインラボ代表)
 
主催:
一般財団法人 大阪デザインセンター
 
会場:
大阪デザインセンター「SEMBA」
 
日時:
2019年11月8日(金)14:00~17:00
 
参加人数:
11名

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