海外レポート

2012.04.03

ヨーロッパ 創造の現場

ULTRA Si(ウルトラ・シー) 代表山﨑 一元氏

縮小している日本市場の中だけでなく、世界を市場としていく戦略においては、国際的な感覚のあるデザインやブランディングが不可欠です。海外市場に活路が求められ、日本の国際的役割も大きく問われている今日、現地デザイナーとコラボレーションした方にビジネス体験談を語っていただきます。今号では、イタリアのデザイン事務所でキャリアを積まれた山﨑一元様(プロダクトデザイナー/ULTRA Si代表)に寄稿いただきました。

■快適の国イタリア

2000年1月からミラノで生活を始めた。エレクトロニクス製品だけでなく食器や家具など、どちらかというとクラシックな生活用品のデザインも経験してみたかったので、住むこと食べることや着るものなど生活全般でいろんなものがバランス良くデザインされているイタリアを選んだ。かの地で暮らした10年間、結局は家電分野の仕事に携わる機会が多かったのだが、いろんな仕事を楽しんでする事ができた。イタリアンデザインはもとより美しいヨーロッパのデザイン、その創造の現場に身を置きそれらの由緒を知る事ができたので大変喜んでいる。
常に旅行先人気ランキング上位をキープするイタリアという国、できればそこでしばらく暮らしてみたいと魅力に思う人も少なくないのではないか。快適な気候、豊かにおいしい食物が実り、さらにはそんな環境に育った気さくなイタリア人たちが居る。心地良い快晴の日が多く、身体が喜んでいることを自然に感じる。
Quality of lifeという言葉を象徴する国の一つであるが、生活を行う上でベースとなる自然環境のクオリティーが既に高く、暮らしに快適性をもたらしている。そんなリッチな環境の中、人々は快適性に敏感であり、快適で居ることに貪欲になる。美しいデザインは目に快適であり、イタリアンデザインが魅力的であることに納得できる。

■イギリス人デザイナーとのコラボレーション

元々、イタリアのクライアントも多く、ロンドンからイタリアに拠点を移しデザイン活動を行っていたセバスチャン・バーン氏よりコラボレーションの依頼を受けた。家電ブランドMoulinex(ムリネックス、フランス)の製品シリーズデザインのためのアシスタントが必要であるとのこと。私は主にバーン氏のデザインイメージを3D-CADで立体化するという役割を与えられたのだが、そこでもブランドイメージを明確に表現する造形やサーフェスの質、ディティールなどが求められた。自動車業界などでの話は知っていたが、家電の世界も同じく、ブランドのDNAを継承する事、また他ブランドとのイメージの棲み分けをする事が極めて重要視されている。特にこのMoulinexの属するSEBグループ(フランス)下にはTefal(日本ではT-fal)、ROWENTA、KRUPSその他多くの家電ブランドがあり、ブランドイメージの重複はすなわちグループ内ブランド間での消費者層の重複。それは販売効率に悪影響を及ぼすことになるので、なおさら慎重な議論になっていたのではないかと思う。
コラボレーション全般で印象に残っている彼からの言葉は「should be CONTROLLED」。直訳は「管理されるべき」であるが、偶然出たようなカタチや効果を嫌う。円錐など幾何形態の一部をできるだけ活用したり、断面カーブもあくまでR(アール)を繋いで作るという風であった。当時どちらかというと自由曲線の断面で作ったオーガニックな形状に先進性を感じていた私としては「堅(カタ)い」印象を受けたが、完成した製品を見ると、ソフトでかわいいが凛とした芯があり、その醸し出すヨーロピアンな雰囲気に驚き好意を持った。

■イタリア人デザイナーとのコラボレーション

うさぎの爪楊枝入れなど、キャラクター性の強いALESSI(アレッシィ)社のキッチン用品で名を馳せたステファノ・ジョバンノーニ氏よりコラボレーションの誘いを受けた。腕時計の仕事や日本企業とのプロジェクトを控えているということであった。
渡伊7年目にして初めてイタリア人の下で働くことができる事、またその仕事内容に大きな期待を寄せ、氏の事務所での常駐コラボが始まった。アイデア出しの段階から全て3D-CADを使用、レンダリングを行いリアルなCGで氏へ提示を行うシステムなので作業量が多い。しかも、まず氏が指示するアイデアを作成、その他に自分のアイデアも作って提案したいということもあり、多ければ百のアイデアがモニター上に並ぶ。デザインの方向性が決まった後も、カーブの微調整など、時間の限り飽くなきモディファイが続く。とにかく締切直前に発せられる「BELLOベッロ」(直訳:美しい)というOKサインをもらうまでがんばる(ここでは、ただ美しいというだけではなく、使いやすいか、時代性はあるか、コンセプトは的確か、などいろんな意味が複合された「良し」という褒め言葉である)。上述のように貪欲に快適さを追求するイタリア人であるが、この創造の現場では「美しさ」へのそれを体験した。
頭の中の空想だけで判断せずに、可能であれば全ての方向性をできるだけリアルなCGやモデルにして検討する。そして、たとえ非効率であっても昨日までのシステムを無為に当てはめず、今の条件に最適なものを徹底して模索する。そんな風で、目から鱗的な面白いアイデアが見つかることもあり、効率を重要視し過ぎて、切り捨てることが多すぎたそれまでの自分のやり方を反省した。

■2つの国の違い

2つの事務所を経験して(家電という限られたフィールド内での比較ではあるが)、それぞれボスの出身国による違いを感じることができたと思う。
幾何形態をパズルのように組み合わせる、Artificial(直訳:人工的)でLogical(論理的)な美にはイギリスらしさを感じるし、ユーザーとのコミュニケーションを大事にするOrganic(直訳:有機的)でNaturalなスタイリングには南欧の国イタリアらしさを感じる。
国の違いでアウトプットが変わるのは当然であるが、上記の造形手法などでは、帰納的考察からゲルマンーラテン系の違いと、木の線材・面材を組み合わせて生活道具を作っていた森の民族と石材が豊富でそれらを自由な形に削って創作活動を行っていた民族の違いに起因するものでは...などと仮説を立てて楽しむこともある。

■対比、拮抗~ジャパンデザインへの憧れ

上述のラテンーゲルマンの対比をはじめ、個性の強い国々が隣接するヨーロッパには多くの文化的拮抗があるように思う。とりわけ意識に上るのが古典(classic) 対 前衛(avant-garde)。長く継続する基準とそれに対するアンチテーゼ。産業革命以降から近年のダッチ/U.K.デザインブームなどに至るまで、ギリシャで生まれイタリアで育まれた古典的ヨーロッパの美意識に対するカウンターカルチャーが様々な国で沸き起こり、次のスタンダードの座を狙っているかの様相である。
それでは、日本とヨーロッパ間での対比はどういうものになるのか。「思考の時間軸スパン」の違い(ヨーロッパは長く、日本は短いもしくはないなどと言われる)は一般的によく取り上げられるテーマであるが、それは製品デザインの世界、特にブランディング戦略においても顕著である。ヨーロッパの、過去の遺産を受け継ぎながらゆっくりと進化した(脈略のない突然変異は極めて少ない)安心感のあるデザインにはモノへの愛着を喚起する魅力がある。それとは反対に日本のデザインからは「現在」を謳歌する圧倒的な華やかさや瞬発的な訴求力を感じるし、ヨーロッパ市場におかれたそれはTraditionalな環境に辟易した若者に対して、生活に新風を吹き込む魅力的なカウンターカルチャーとなっている。

■特殊性~ジャパンスピリット

イタリア寄りの視線ではあるが簡単にヨーロッパのことを書いた。特に「新たなヨーロッパの秘密」の類の記述はなく、昔から何度も聞いているような事柄が多かったのではないかと思う。しかし、そういった既知の言葉に、自分が認識していた以上の信憑性があるという事が分かった(それが発見)。「島国根性」という言葉があるが、隣の韓国などは北朝鮮経由でわずかに世界と地続きであるだけなのに、我々よりずっと大陸的(「国際的な立ち居振る舞いが自然」とでも言おうか)であるように感じた。家電量販店でのSAMSUNGや、そのデザインセンター(ヨーロッパ拠点)の様子、また単に友人を見知りしての印象である。
また海外で暮らしてみて、他の民族と比べて日本人は随分particular(直訳:風変わり)であることを実感した(世界の端の島国である事と厳しい自然環境が影響している)。それと同時に、世界にとって日本は常にvery specialな存在であり関心の的であることも知った。近年では世界的なエコブームに乗って、「倹約」などの精神性が注目を集めていたりなど、日本的な記号やスタイルに付随するJapanese spiritの方にまで掘り下げて興味が移行しているようだ。
2010年に永住帰国し、デザイン事務所を構えた。ヨーロッパの慣習に迎合し過ぎる事なく、日本の尖った部分をさらに研ぎ澄ませて、国外市場にまでもしっかり突き刺さるようなデザイン活動をやっていきたい。

ULTRA Si(ウルトラ・シー) 代表 山﨑 一元氏(Kazumoto Yamasaki)
プロダクトデザイナー。大阪生まれ。九州芸術工科大学卒業後、株式会社デンソーを経て渡伊。ミラノでYamasaki Design Officeを設立し、日欧メーカー及びデザイン事務所とのコラボレーションを行う。永住帰国後、デザインコンサルティング会社ULTRA Si設立(2010年)。
http://ultra-si.com